1. 「年度更新」とは何か
労働保険(労災保険・雇用保険)の保険料は、年度初めに見込みで「概算保険料」を納付し、年度終了後に実際の賃金総額から「確定保険料」を計算して過不足を精算するという仕組みになっています。この確定と概算をあわせて申告・納付する年に一度の手続きが「年度更新」です。
対象期間は前年度(2025年4月1日〜2026年3月31日)に支払った賃金総額で、申告・納付期間は毎年6月1日から7月10日までと定められています。令和8年度も例年どおり、この期間内の手続きです。
2. なぜ「7月10日」に注目すべきか ― 資金繰りの重なり
前回のコラムでお伝えしたとおり、源泉所得税の納期の特例(1〜6月分)の納付期限も7月10日です。従業員を雇用している中小企業では、次の支払いがほぼ同時期に発生することになります。
- 源泉所得税(納期の特例分・1〜6月分)
- 労働保険料(確定保険料の精算分+新年度の概算保険料)
- 賞与を支給した会社は、その源泉徴収税額・社会保険料も重なりやすい
労働保険料は賃金総額に保険料率を掛けて算出するため、事業規模によっては数十万円単位の金額になります。「気づいたら手元資金が足りない」という事態を避けるため、6月中旬までに概算額を試算し、資金繰り表に織り込んでおくことをおすすめします。
3. 令和8年度の変更点 ― 雇用保険料率の引き下げ
項目 | 令和8年度の内容 |
|---|---|
雇用保険料率(一般の事業) | 1.35%に引き下げ(令和7年度は1.45%) |
労災保険率 | 令和7年度から変更なし(業種ごとに設定) |
一般拠出金率 | 変更なし(1,000分の0.02) |
実務メモ:申告書には「確定保険料(令和7年度の料率)」と「概算保険料(令和8年度の料率)」を別々の欄に記入します。確定保険料の金額をそのまま概算保険料欄に転記してしまうのは毎年起きがちなミスなので、料率の違いに注意してください。
4. 期限を過ぎるとどうなるか
7月10日を過ぎても未申告のままだと、政府(労働局)が保険料額を職権で決定し、確定保険料に対して追徴金(10%相当)が課される可能性があります。期限直前は労働基準監督署の窓口が大変混み合うため、余裕をもった対応が必要です。
5. 分割納付(延納)という選択肢
概算保険料の額が40万円以上(労災保険・雇用保険のどちらか一方のみ成立している場合は20万円以上)であれば、労働保険料を年3回に分割して納付できます。第1期の納期限は7月10日、以降は10月末日・翌年1月末日(休日にあたる場合は翌営業日)です。
資金繰りが厳しい時期に一括納付で無理をするより、延納を選んで他の納税資金(源泉所得税・消費税の中間納付など)とバランスを取る方が安全な場合もあります。延納を希望する場合は申告書へのチェックが必要なので、申告時に忘れず記載しましょう。
6. 実務のポイント ― 申告手続きは社労士業務、資金繰りは私たちの領域
労働保険の年度更新の申告書作成・提出そのものは社会保険労務士の業務範囲であり、税理士業務とは異なります。既に顧問の社労士事務所がある場合はそちらにご相談ください。顧問先がない場合は、信頼できる社労士のご紹介も可能です。
一方で、7月10日に源泉所得税と労働保険料の支払いが重なることで生じる資金繰りの負担は、会計・税務の観点からご相談いただける範囲です。「毎年この時期は現金がタイトになる」とお困りの方は、お気軽にご連絡ください。