1. 制度の基本の仕組み
賃上げ促進税制は、青色申告書を提出する中小企業者等が前年度より給与等支給額を増加させた場合に、その増加額の一定割合を法人税(個人事業主は所得税)から直接控除できる制度です。パート・アルバイトを含む全雇用者の給与総額(役員・役員の親族等を除く)が対象になります。
給与増加率 | 基本の税額控除率 |
|---|---|
前年度比1.5%以上増加 | 15% |
前年度比2.5%以上増加 | 30% |
これに、子育てとの両立支援・女性活躍支援(くるみん認定・えるぼし認定等)の上乗せ要件を満たすと、最大35%まで控除率が上がります。
2. 令和8年度改正 ― 教育訓練費の上乗せが廃止
これまでは教育訓練費が前年度比5%以上増加していれば控除率が10%上乗せされ、最大45%まで控除できました。令和8年度税制改正で、この教育訓練費の上乗せ措置は廃止されることになりました(廃止時期は今後の法案成立を待つ必要がありますが、大綱では明記されています)。結果として、中小企業向けの最大控除率は45%から35%に引き下げられる見込みです。研修費用を増やす計画を立てていた企業は、控除率への影響を織り込んでおく必要があります。
3. 赤字企業でも使える「5年間の繰越控除」
賃上げ促進税制は法人税・所得税からの控除のため、赤字で税額が発生しない企業はメリットを受けにくいという課題がありました。これに対応するため、中小企業には控除しきれなかった金額を最大5年間繰り越せる措置が設けられています。
実務メモ:繰越控除を使う場合は、①未控除額が発生した年度以後、毎期「繰越税額控除限度超過額の明細書」を確定申告書に添付し続ける必要があります。この添付を1年でも忘れると、それ以降の繰越控除ができなくなるおそれがあるため、赤字が続く年こそ申告書のチェックが重要です。また、繰越控除を実際に使う年度はその年度の給与等支給額が前年度より増加していることが条件です。
4. 適用対象となる中小企業の範囲
対象となるのは、資本金1億円以下の法人、または常時使用する従業員数1,000人以下の個人事業主などです。ただし、資本金1億円超の大規模法人から一定割合以上の出資を受けている法人は対象外になるなど、細かい除外規定があります。中堅企業向け・全企業向けの制度と要件が異なるため、自社がどの区分に該当するかの確認が最初のステップです。
5. 実務のポイント
賃上げ促進税制は事前の届出が不要な分、「知らないまま申告して控除を受けそびれる」ケースが起きやすい制度です。特に赤字企業では「税額控除なんて関係ない」と見過ごされがちですが、5年間の繰越控除があるため、賃上げをした事実そのものを記録・申告しておく価値があります。
給与の増加率が要件を満たすか、繰越控除の明細添付を忘れていないかなど、賃上げを検討・実施された場合は決算前に一度確認しておくと安心です。