1. 「電子取引データ保存」は義務、他は任意
電子帳簿保存法には3つの区分がありますが、義務なのは「電子取引データ保存」だけです。
- 電子帳簿等保存(会計ソフトで作成した帳簿等をデータ保存)……任意
- スキャナ保存(紙で受領した書類をスキャンしてデータ保存)……任意
- 電子取引(メール・クラウド等でデータのまま授受した取引情報の保存)……義務
メール添付のPDF請求書、クラウド請求書サービスからダウンロードした領収書、ECサイトの購入明細などはすべて「電子取引」に該当し、2024年1月1日以後の取引から、データのまま保存する必要があります。紙に印刷した控えを別に持つこと自体は問題ありませんが、元の電子データを保存せず紙だけにすることは原則として認められません。
2. 保存に必要な2つの要件
電子取引データの保存には、真実性の確保(改ざん防止)と可視性の確保(検索できる状態)の2つの要件があります。
実務メモ:検索要件は、専用システムがなくてもファイル名を「日付_金額_取引先」の形式に統一し、フォルダ内でエクスプローラーの検索機能を使える状態にしておけば満たせます(例:20260710_110000_株式会社◯◯.pdf)。改ざん防止についても、事務処理規程(訂正削除の防止に関するルール)を国税庁のひな形をもとに作成・備え付けることで満たすことができます。
3. 検索要件が不要になる緩和措置
基準期間(前々事業年度・個人は前々年)の売上高が5,000万円以下の事業者、および電子取引データを出力した書面を取引年月日・取引先ごとに整理して提示できる事業者は、検索機能のすべてが不要になります(ただし税務調査時にデータの「ダウンロードの求め」に応じられることが条件)。多くの中小企業・個人事業主にとっては、この緩和措置だけでも十分対応できるケースが多いです。
4. 「猶予措置」を誤解しないこと
要件どおりの保存体制が間に合わない事業者向けに「相当の理由」がある場合の猶予措置があります。これは真実性・検索要件への対応を猶予するものですが、電子取引データそのものを保存する義務まで免除するものではありません。
「猶予措置があるから何もしなくていい」という誤解は禁物です。猶予措置を使う場合でも、税務調査時にはデータのダウンロード提示と、整理された出力書面の提示の両方に応じられる必要があり、二度手間になりがちです。早期に正規の保存体制へ移行する方が、結果的に事務負担は軽くなります。
5. 対応しない場合のリスク
保存義務に違反し、是正にも応じない状態が続くと、青色申告の承認取消(個人事業主なら最大65万円の青色申告特別控除の喪失、法人なら欠損金の繰越控除喪失にもつながる)や、隠蔽・仮装が認められた場合の重加算税の加重(10%上乗せ)といった重いペナルティにつながるおそれがあります。「紙で運用していたから大丈夫」という認識は、2024年以降は通用しません。
6. 実務のポイント
電子取引データ保存への対応は、まず「どの経路でデータの取引情報が届いているか」の棚卸しから始めるのが近道です。メール添付、クラウド請求書、ECサイト、法人カードの利用明細など、紙を介さない取引をリストアップし、保存先を一本化することで対応は格段に楽になります。
「うちは対応できているか不安」という方は、事務処理規程の整備状況とあわせて、一度現状を確認してみることをおすすめします。