1. 事業承継税制とは
非上場企業の自社株には、業績が良いほど高い相続税評価額がつきます。後継者に株式を承継する際、その評価額に応じた多額の贈与税・相続税が発生し、納税資金が用意できず事業承継そのものが難航するケースが少なくありません。
事業承継税制は、経営承継円滑化法に基づく都道府県知事の認定を受けることで、後継者が取得した自社株(法人版)や事業用資産(個人版)にかかる贈与税・相続税の納税を猶予し、一定の要件を満たし続ければ最終的に免除される制度です。平成30年度改正で創設された「特例措置」は、従来の「一般措置」より大幅に使いやすくなっています。
2. 特例措置が「一般措置」より有利な4点
- 対象株式数の上限撤廃……一般措置は発行済議決権株式総数の2/3が上限だが、特例措置は全株式が対象
- 納税猶予割合100%……一般措置は相続税80%・贈与税100%だが、特例措置は相続税・贈与税とも100%
- 後継者は最大3人まで……親族外を含む複数の株主から、代表者である後継者(最大3人)への承継が対象
- 雇用確保要件の実質撤廃……承継後5年間平均で雇用の8割維持が原則だが、下回っても正当な理由の説明により猶予を継続できる
3. 令和8年度改正 ― 計画提出期限が延長
特例措置を使うには、事前に「特例承継計画」(個人版は「個人事業承継計画」)を作成し、都道府県に提出しておく必要があります。この提出期限が、経営者の高齢化と後継者不足を踏まえて延長されました。
項目 | 法人版 | 個人版 |
|---|---|---|
計画提出期限(改正後) | 令和9年9月30日 | 令和10年9月30日 |
贈与・相続の実施期限 | 令和9年12月31日(延長なし) | 令和10年12月31日(延長なし) |
実務メモ:延長されたのは計画の"提出期限"だけで、実際に株式の贈与・相続を行う"実施期限"は延長されていません。「あと2年くらい猶予がある」と誤解して先延ばしにすると、実施期限に間に合わなくなるおそれがあります。計画提出後も、実際の承継はできるだけ早く進める前提で準備を進めてください。
4. 主な適用要件
- 会社要件……中小企業基本法上の中小企業者・非上場であること。資産管理会社(有価証券・不動産等の保有割合が高い会社)は原則対象外
- 先代経営者要件……会社の代表者であったこと、同族関係者で総議決権数の50%超を保有し筆頭株主であったこと
- 後継者要件……贈与時に代表者であること(令和7年度改正で「贈与直前の代表権」に緩和)、相続の場合は相続開始から5か月以内に代表者になること
- 承継後5年間は代表者であり続けること・株式を継続保有すること
5. 使うべきでないケースもある
この制度は強力な反面、要件を満たせなくなると猶予税額の全額に利子税を付けて一括納付しなければならないリスクを伴います。次のようなケースでは、あえて制度を使わず、通常の贈与・相続で承継した方が合理的なことがあります。
- 自社株の評価額がそれほど高くなく、通常の贈与税・相続税でも負担が大きくない場合
- 将来的にM&Aで会社を売却する可能性がある場合(承継後5年以内の株式譲渡は猶予打ち切りの対象)
- 後継者候補が複数おり、将来の経営方針で対立するリスクがある場合
6. 実務のポイント
特例承継計画の提出には認定経営革新等支援機関の指導・助言が必要で、実際の承継まで含めると準備に半年から1年以上かかることも珍しくありません。期限が延長されたとはいえ、検討自体は早めに始めるに越したことはありません。
自社株の評価額の試算や、事業承継税制を使うべきかどうかの判断は、承継の何年も前から準備しておくべきテーマです。後継者への引き継ぎを検討されている場合は、早めにご相談ください。