西原公認会計士・税理士事務所

税務コラム VOL.29 / 相続税・基礎控除

「うちは相続税と無縁」とは限りません ― 相続税の基礎控除と申告要否の考え方

  • 相続税の基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」。遺産総額がこれ以下なら申告不要
  • 平成27年(2015年)の改正で基礎控除が4割引き下げられ、以前は無縁だった家庭でも課税対象になるケースが増えた
  • 配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例で税額がゼロになる場合でも、これらの特例を使うには申告が必要
  • 生命保険金・死亡退職金には「500万円×法定相続人の数」の別枠の非課税枠がある

1. 基礎控除の計算式

相続税の基礎控除額は、次の式で計算します。

基礎控除額 = 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数

たとえば法定相続人が配偶者と子2人の計3人であれば、基礎控除額は3,000万円+600万円×3人=4,800万円です。遺産の総額がこの金額以下であれば、相続税はかからず、申告も原則不要です。逆に超えていれば、超えた部分に応じて相続税が課税されます。

2. 「法定相続人の数」の数え方に注意

基礎控除額を左右する「法定相続人の数」には、次のような独特のルールがあります。

  • 相続放棄をした人がいても、基礎控除の計算上は放棄がなかったものとして人数に含める
  • 養子は人数に制限がある……実子がいる場合は養子1人まで、実子がいない場合は養子2人までしか法定相続人としてカウントできない(税負担軽減目的だけの養子縁組は税務署に否認されるおそれもある)
  • 代襲相続人(本来の相続人が既に死亡している場合の孫等)も、通常どおり1人としてカウントする

3. 平成27年改正で「他人事ではなくなった」

現在の基礎控除額は、平成27年(2015年)1月1日の改正によるものです。改正前は「5,000万円+1,000万円×法定相続人の数」でしたが、改正後は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」と、実に4割引き下げられました。この改正により、相続税の課税対象となる人は約2倍に増加したとされています。「うちは資産家ではないから関係ない」という以前の感覚のままでいると、実際には申告が必要なケースを見落とすおそれがあります。特に自宅の土地を保有している場合は、立地によって評価額が想定以上に高くなることがあるため注意が必要です。

4. 「税額ゼロでも申告が必要」な特例に注意

相続税には、基礎控除のほかにも税負担を軽くする特例がありますが、特例を使うために申告が必要かどうかは特例ごとに異なります。

特例・控除

税額ゼロでも申告が必要か

配偶者の税額軽減(1億6,000万円 or 法定相続分まで)

必要

小規模宅地等の特例(評価額最大80%減)

必要

未成年者控除・障害者控除・相次相続控除

不要(税額が発生しない限り)

実務メモ:「配偶者の税額軽減を使えば税額はゼロになるはずだから、申告しなくていい」という誤解は非常によくある落とし穴です。特例の適用を受けるための申告書提出という手続き自体が要件になっているため、期限内(相続開始を知った日の翌日から10か月以内)の申告を忘れると、特例が使えず、本来不要だったはずの納税が発生することもあります。

5. 生命保険金・死亡退職金の別枠非課税

生命保険金と死亡退職金には、それぞれ「500万円×法定相続人の数」という、基礎控除とは別枠の非課税枠があります(一定の相続人が受け取った場合に限る)。法定相続人が3人であれば、生命保険金1,500万円までは非課税です。この非課税枠を使い切るための保険加入は、相続税対策の基本の一つとして広く使われています。

6. 実務のポイント

財産の全体像(預貯金・不動産・有価証券・生命保険等)を把握しないまま「基礎控除内だから大丈夫」と判断してしまうと、名義預金(実質的には被相続人の財産とみなされる家族名義の預金)の見落としなど、後日の申告漏れにつながることがあります。

基礎控除を超えるかどうか判断がつかない場合や、配偶者の税額軽減・小規模宅地等の特例の適用を検討している場合は、早めにご相談ください。

※本記事は公開時点の法令等に基づいて作成しています。個別の適用可否については必ずご確認ください。

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