西原公認会計士・税理士事務所

税務コラム VOL.31 / 相続税・生命保険

預金のままでは使えない非課税枠 ― 生命保険を使った相続対策の基本

  • 死亡保険金には「500万円×法定相続人の数」という、預貯金にはない専用の非課税枠がある
  • 死亡保険金は「みなし相続財産」で遺産分割の対象外。受取人固有の財産として、指定した人に確実に渡せる
  • 受取人の口座に直接振り込まれるため、相続税の納税資金・代償分割の原資としてすぐに使える
  • 非課税枠は受取人が「相続人」の場合に限る。孫や子の配偶者など相続人以外が受け取ると非課税枠は使えない

1. なぜ「現金を保険に置き換える」だけで節税になるのか

預貯金として相続する場合、その金額の全額が相続税の課税対象になります。しかし、契約者・被保険者を被相続人、受取人を相続人とする生命保険に加入していれば、死亡保険金のうち「500万円×法定相続人の数」までは相続税がかかりません。

計算例:法定相続人が配偶者と子2人の計3人の場合、非課税枠は500万円×3人=1,500万円。現金1,500万円をそのまま相続すれば全額が課税対象ですが、これを保険料として生命保険に加入し、死亡保険金として受け取れば、その1,500万円は非課税になります。

2. 生命保険が相続対策に向く3つの理由

①「みなし相続財産」で遺産分割の対象外
死亡保険金は民法上の相続財産ではなく、受取人が保険会社に対して持つ独自の請求権(みなし相続財産)です。そのため遺産分割協議の対象にならず、契約時に指定した受取人に確実に渡すことができます。「この子には多めに残したい」という意向を、遺言によらず実現できる手段でもあります。

②相続放棄をしても受け取れる
死亡保険金は受取人固有の権利であるため、相続放棄をした人でも受け取ることができます。被相続人に借入金が多い場合、相続放棄をしつつ生命保険金だけは受け取る、という選択も可能です(ただしこの場合、非課税枠は適用されない点に注意)。

③すぐに現金化できる
不動産や株式と違い、死亡保険金は受取人の請求後短期間で受取人の口座に振り込まれます。相続税の申告・納税期限(10か月)に対して、葬儀費用や当面の生活費、納税資金をすぐに確保できる点は大きな利点です。

3. 「代償分割」の原資としての活用

自宅や自社株など、簡単には分割できない財産を後継者に集中して相続させたい場合、代償分割(特定の相続人が財産を相続する代わりに、他の相続人へ現金を支払う分割方法)がよく使われます。この代償金の支払い原資として、後継者を受取人とする生命保険を活用すれば、財産を渡す相手と現金を用意するタイミングを事前にコントロールできます。特に自社株や不動産が財産の大半を占める事業承継の場面では、有効な手段の一つです。

4. 見落としがちな2つの注意点

①非課税枠は「相続人」限定
非課税枠が使えるのは、死亡保険金の受取人が相続人である場合だけです。孫を受取人にする場合でも、孫が代襲相続人でなければ非課税枠は適用されません。「孫に多く残したいから」と安易に受取人を孫にすると、節税効果が得られないまま相続税・場合によっては2割加算の対象になることもあります。

②契約形態(契約者・被保険者・受取人)で税目が変わる
契約者と被保険者が同一人物(例:被相続人)で受取人が相続人の場合は相続税の対象ですが、契約者と受取人が同一人物で被保険者が別人の場合は所得税(一時所得)、契約者・被保険者・受取人が三者三様の場合は贈与税の対象になるなど、契約形態によって課税関係が大きく変わります。加入前に、誰を契約者・被保険者・受取人にするかを正しく設計することが重要です。

5. 実務のポイント

生命保険は「非課税枠を使い切っているか」「契約形態が意図どおりになっているか」「受取人の設定が代償分割や納税資金の計画と整合しているか」を確認することが出発点です。

既に加入している保険がある場合も、契約形態や受取人の設定が現在の相続対策の方針と合っているか、一度確認しておくことをおすすめします。

※本記事は公開時点の法令等に基づいて作成しています。個別の適用可否については必ずご確認ください。

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