1. なぜ「日当」だけが非課税になるのか
出張には、交通費・宿泊費のほかに、慣れない土地での食事代や細々とした雑費がかかります。所得税法9条1項4号は、こうした「その旅行について通常必要であると認められるもの」を非課税所得と定めています。この規定に基づき、出張旅費規程を整備し、規程に沿って支給される日当は、受け取る役員・従業員側では所得税・住民税がかからず、会社側では全額を損金(経費)にできます。
同じ金額を給与として支給すれば、所得税・住民税で目減りしますが、日当であればその負担がありません。旅費規程の整備は、法人税・所得税・消費税・社会保険料の4方向でメリットが重なる数少ない仕組みです。
2. 消費税でも仕入税額控除の対象になる
国内出張のために支給した旅費・宿泊費・日当のうち、通常必要と認められる部分は消費税の課税仕入れに該当します。しかも、この部分についてはインボイス(適格請求書)の保存がなくても、一定事項を記載した帳簿のみで仕入税額控除が認められるという特例があります。日当を受け取る役員・従業員は事業者ではなくインボイスを発行できないため、この帳簿のみ特例は実務上とても重要です。
実務メモ:海外出張の日当は、この消費税の特例の対象外(不課税)です。国内出張分と海外出張分を区別して経理処理する必要があります。
3. 社会保険料への影響
日当は給与に該当しないため、健康保険・厚生年金保険料の算定基礎(標準報酬月額)に含まれません。役員報酬の一部を非課税の日当に置き換えることができれば、会社・個人双方の社会保険料負担が下がる可能性があります。ただし、これは役員報酬を実質的に日当へ付け替えるものではなく、あくまで出張の実態に基づいて支給するものである点には注意してください。
4. 「社会通念上相当」というブレーキ
非課税として認められるのは、あくまで社会通念上相当な金額に限られます。法律上の明確な上限額はありませんが、実務では次の2つの視点で判断されます。
- 金額の妥当性……財務省や民間の調査(国内出張の日当は平均2,000〜3,000円台、海外出張は5,000円前後)から著しく乖離していないか
- 支給の公平性……全役員・全従業員に公平に適用されるルールになっているか(役職による差を設けること自体は問題ないが、差が社会通念上妥当であること)
日当を1日5万円・10万円といった水準に設定すると、その超過部分は実質的な役員賞与・給与として課税されるリスクが高くなります。過去の裁判例でも、規程で定めた金額であっても社会通念を超える部分は税務署が否認できるとされています。
5. 一人社長でも導入できる
役員が一人の会社であっても、出張旅費規程を作成・運用すること自体は可能です。ただし「自分でお手盛りで決めた」と見なされないよう、世間相場に沿った金額設定がより重要になります。また、実態のない出張(架空出張)に日当を支給することは重加算税の対象になり得る重大な問題です。出張報告書・訪問先の記録・交通費の明細などを残し、規程どおりに運用されていることを常に説明できる状態にしておく必要があります。
6. 実務のポイント
出張旅費規程を作る際は、①距離基準(例:片道100km以上)、②日帰り・宿泊の区分、③役職別の金額、④精算方法(定額支給が原則)を明確にしておくことが基本です。
既に規程がある場合も、金額が現在の相場や自社の出張実態に照らして妥当かどうか、一度確認しておくことをおすすめします。