1. 「106万円の壁」とは何だったか
パート・アルバイトが勤務先の社会保険(厚生年金・健康保険)に加入する条件は、これまで次の5つをすべて満たす場合とされていました。
- ①週の所定労働時間が20時間以上
- ②月額賃金が8.8万円以上(年収換算106万円以上)
- ③2か月を超える雇用の見込みがある
- ④学生でない
- ⑤従業員数51人以上の企業(特定適用事業所)に勤めている
このうち②の賃金要件が「106万円の壁」と呼ばれ、これを超えないよう労働時間を調整する就業調整(働き控え)の一因になっていました。
2. 2026年10月からの変更
令和6年成立の年金制度改正法に基づき、2026年10月1日から②の賃金要件(月額8.8万円以上)が撤廃されます。これにより、年収にかかわらず①・③・④・⑤を満たせば社会保険の加入対象になります。
実務メモ:賃金要件がなくなる一方、週20時間以上という労働時間要件は残ります。今後は「106万円の壁」に代わって「週20時間の壁」を意識した就業調整が増えると見込まれています。「時給を上げれば加入対象から外れられる」わけではなく、労働時間そのものを週20時間未満に抑えないと加入対象になる点を、従業員への説明時に誤解のないよう伝える必要があります。
3. 「従業員51人以上」の企業規模要件は当面残る
2026年10月に撤廃されるのは賃金要件のみで、⑤の企業規模要件(従業員数51人以上)はこの時点ではまだ残ります。ただし、この要件も段階的に縮小され、将来的にはすべての企業が対象になる方向で議論が進んでいます。
現時点で従業員数51人未満の会社は、2026年10月の改正で直接の影響は受けません。ただし、将来の段階的な規模要件の見直しは避けられない見通しのため、いずれ自社にも影響が及ぶという前提で準備しておく価値があります。
4. 会社側の負担増と軽減措置
新たに社会保険加入の対象となるパート・アルバイトが増えれば、その分会社が負担する社会保険料(労使折半)が増加します。パート比率の高い飲食・小売・宿泊業などでは、影響が大きくなる可能性があります。
この負担増を緩和するため、標準報酬月額が一定額以下の対象者について、事業主の負担割合を増やすことで従業員の保険料負担を軽減できる特例措置(3年間の時限措置)が設けられています。事業主が追加負担した分は国から全額支援される仕組みです。
5. 今からやっておくべき3つのこと
- 該当者の洗い出し……現在の週所定労働時間・月額賃金・雇用契約を確認し、10月以降に新たに加入対象となる従業員をリストアップする
- 人件費インパクトの試算……新規加入者数×会社負担分の社会保険料で、年間の追加コストを概算しておく
- 従業員への説明……手取りが一時的に減る一方、将来の年金額増加・傷病手当金等の保障拡充というメリットがあることを、加入前に丁寧に伝える
6. 実務のポイント
社会保険の加入手続き自体は社会保険労務士の業務範囲ですが、新規加入による人件費増加が資金繰り・利益計画に与える影響は会計・税務の観点から把握しておくべきテーマです。
10月の施行に向けて、影響を受ける従業員の人数や年間コストの試算でご不明な点があれば、お気軽にご相談ください。