1. 現行制度のおさらい ― 「雑所得・総合課税」
現在、暗号資産の売却益は雑所得に区分され、給与所得など他の所得と合算した総合課税の対象です(VOL.42参照)。所得税・住民税をあわせた税率は最大約55%に達することがあり、株式・投資信託の申告分離課税(20.315%)と比べて著しく不利な扱いとされてきました。加えて、暗号資産の損失は他の所得と損益通算できず、翌年以降への繰越控除もできません。
2. 令和8年度改正で決まったこと
令和8年度税制改正で、暗号資産取引に係る所得を申告分離課税(20.315%)に移行する制度が盛り込まれました。あわせて、損失が生じた場合の3年間の繰越控除も新設されます。株式等とほぼ同等の課税の枠組みに近づける内容です。
実務メモ:分離課税の対象になるのは「特定暗号資産」、すなわち金融商品取引業者登録簿に登録された暗号資産に限られる見込みです。海外取引所やDEX(分散型取引所)での取引は、この登録の枠外にあるため対象外となる可能性が高いとされています。「どの取引所で売るか」によって課税方式が変わるという、これまでにない新しい論点が生じることになります。
3. 「いつから」が最も重要なポイント
今回の改正で最も誤解されやすいのが適用開始時期です。分離課税の適用には、暗号資産を「資金決済法」上の決済手段から「金融商品取引法(金商法)」上の金融商品として位置づけ直す法改正が前提になります。改正大綱では、適用開始を「金商法の改正法の施行日の属する年の翌年1月1日以後に行う譲渡等」と定めています。
つまり、税率を定めた所得税法の改正自体が成立・施行されても、前提となる金商法改正の施行を待たなければ分離課税は始まりません。金商法改正案の国会審議の進み方次第で時期は前後しますが、現時点の見立てでは2027年〜2028年頃が有力とされています。「ニュースで20%と聞いたから、もう20%で申告していい」というのは誤りで、それまでの取引は引き続き総合課税(雑所得)で申告する必要があります。
4. 今のうちに準備しておきたいこと
- 取引履歴の整理……分離課税移行後も、それ以前の取引分は総合課税での精算が必要になるため、取引所ごとの履歴・損益計算は継続して整理しておく
- 取引所の選び方……将来、国内登録業者(特定暗号資産の取扱業者)とそれ以外とで課税方式が分かれる可能性があるため、主に利用する取引所の位置づけも意識しておく
- 高額な利益が出た年は特に慎重に……現行制度下では利益確定のタイミングによって税率が大きく変わるため、大きな売却益が見込まれる場合は事前のシミュレーションが有効
5. 実務のポイント
暗号資産の税制はここ数年、大きな転換点を迎えていますが、実際の適用開始までにはまだ時間があります。今後の法案審議の状況を注視しつつ、当面は現行の総合課税ルールに沿った申告と損益管理を丁寧に行うことが基本です。
暗号資産取引の損益計算や確定申告でご不明な点があれば、お気軽にご相談ください。