西原公認会計士・税理士事務所

税務コラム VOL.49 / 社会保障・家計と医療費

今年8月から、医療費の自己負担上限が上がります ― 高額療養費制度の見直し、経営者・従業員双方への影響

  • 高額療養費制度の自己負担限度額が令和8年(2026年)8月から引き上げられる(全所得区分でおおむね4〜7%程度の増額)
  • 令和9年(2027年)8月には、所得区分がより細かく分割され、区分によってはさらに限度額が上がる
  • 長期療養者への配慮として、「多数回該当」の限度額は据え置き、新たに「年間上限」の仕組みが導入される
  • 自己負担が増える分、医療費控除(VOL.25参照)で還元される割合が相対的に下がる点にも注意が必要

1. 高額療養費制度のおさらい

高額療養費制度は、医療機関や薬局の窓口で支払う医療費が、年齢や所得に応じた自己負担限度額を超えた場合に、その超えた分が払い戻される(または限度額適用認定証の提示により窓口負担自体が上限にとどめられる)仕組みです。高額な手術や継続的な治療を受ける際の家計破綻を防ぐ、重要なセーフティネットとして機能しています。

2. 令和8年8月からの変更点

この制度は令和7年度に一度、見直し案が国会審議中に見送られた経緯がありますが、あらためて専門委員会で議論され、令和8年度予算に組み込まれる形で見直しが決定しました。69歳以下の方は、令和8年8月から所得区分はそのまま(5区分)で、月額の自己負担限度額が次のように引き上げられます(現行限度額からの増加額の目安)。

所得区分(年収目安)

令和8年8月からの増加額(月額)

区分ア(約1,160万円以上)

+17,700円

区分イ(約770万〜1,160万円)

+11,700円

区分ウ(約370万〜770万円)

+5,700円

区分エ(〜約370万円)

+3,900円

区分オ(住民税非課税)

+1,500円

経営者・個人事業主の方は国民健康保険、会社員の方は健康保険(協会けんぽ・組合健保)に加入していますが、いずれの制度でも高額療養費の限度額の考え方は共通です。役員報酬の水準によって所得区分が決まるため、報酬設計を考える際の一つの材料にもなります。

3. 令和9年8月からは所得区分がさらに細分化

現行制度では、たとえば年収約370万円の方と約770万円の方が同じ所得区分・同じ限度額として扱われるという大づかみな設計になっています。令和9年(2027年)8月からは、この区分が3つ程度に細分化され、より所得に応じたきめ細かい負担額に是正される予定です。区分の境目にいる方は、今後どちらの区分に振り分けられるかによって負担額が変わってくるため、細分化の詳細が固まり次第、確認しておく必要があります。

4. 長期療養者・低所得者への配慮策

今回の見直しでは、負担増一辺倒ではなく、次のような配慮も組み込まれています。

  • 多数回該当の金額は据え置き……直近12か月に3回以上高額療養費に該当した場合、4回目以降の限度額がさらに下がる「多数回該当」の仕組みは維持され、金額も原則据え置き
  • 「年間上限」の新設……月単位の限度額には届かなくても、年間の自己負担合計が一定額に達した場合、それ以降の負担が不要になる仕組みが令和8年8月から新設される
  • 年収200万円未満の方への配慮……住民税非課税ラインをわずかに上回る層について、多数回該当の限度額を令和9年8月から引き下げ

5. 医療費控除との関係で意識しておきたいこと

高額療養費として払い戻された金額は、そもそも医療費控除の対象からは除外されます(自己負担した実質的な医療費のみが医療費控除の対象)。自己負担限度額が上がるということは、裏を返せば自己負担する医療費そのものが増えるということでもあります。年間の医療費が多い方は、これまで以上に医療費控除(VOL.25参照)の申告漏れがないよう、レシート・領収書をきちんと集計しておく重要性が増します。

6. 実務のポイント

今回の見直しは税制そのものではありませんが、役員報酬の水準や家計の医療費負担の見通しに関わるテーマとして、経営者の方にも影響があります。特に高額な治療を継続的に受けている方やご家族がいる場合は、今年8月以降の負担増を見込んだ資金計画が必要です。

医療費控除の申告や、役員報酬設計とあわせたご相談があれば、お気軽にお問い合わせください。

※本記事は公開時点の法令等に基づいて作成しています。個別の適用可否については必ずご確認ください。

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