西原公認会計士・税理士事務所

税務コラム VOL.50 / 消費税・インボイス登録

実はその届出書、出さなくてよかったかもしれません ― 消費税課税事業者選択届出書とインボイス登録、混同しやすい2つの手続き

  • 免税事業者が令和5年10月〜令和11年9月30日の間にインボイス登録する場合、「消費税課税事業者選択届出書」は原則不要。登録申請書1枚で課税事業者になれる
  • 選択届出書をあわせて提出してしまうと、2割特例が使えなくなる課税期間が生じることがある
  • 選択届出書を使う必要があるのは、登録日より前から課税事業者になりたい場合還付を受けたい場合など限定的なケース
  • 選択届出書を提出していると、登録取消しの届出書だけでは免税事業者に戻れない(VOL.47参照)

1. 2つの届出書は「別の制度」

消費税には、免税事業者があえて課税事業者になるための「消費税課税事業者選択届出書」という、インボイス制度創設以前からある古い制度と、インボイス発行事業者になるための「適格請求書発行事業者の登録申請書」という2つの手続きがあります。この2つを混同し、「インボイス登録には選択届出書も必要」と思い込んで、不要な書類まで提出してしまうケースが少なくありません。

結論から言うと、令和5年(2023年)10月1日から令和11年(2029年)9月30日までの日の属する課税期間中にインボイス登録を受ける場合、経過措置により、登録申請書の提出だけで課税事業者になれます。選択届出書は原則不要です。

2. 選択届出書を「あわせて出してしまう」とどうなるか

免税事業者がインボイス登録とあわせて2割特例(VOL.10参照)を使う場合の負担軽減を受けるには、いくつかの前提条件があります。令和5年10月1日より前から「消費税課税事業者選択届出書」を提出して既に課税事業者になっていた期間については、2割特例の対象外になります。

実務メモ:「念のため」と考えて登録申請書と選択届出書の両方を提出してしまうと、本来なら経過措置だけで済み2割特例をフル活用できたはずが、選択届出書の提出により課税事業者となった期間が生じ、その期間は2割特例の適用対象外になることがあります。書類は必要最小限に絞ることが、かえって有利になる場合がある、という点は意外と見落とされています。

3. それでも選択届出書が必要になる2つのケース

  • 登録日より前の期間から課税事業者になりたい場合……登録申請書だけでは登録日からしか課税事業者になれません。それより早い時点から課税事業者としての扱い(たとえば大型の設備投資による還付を受けたい等)を望む場合は、選択届出書をあらためて提出する必要があります
  • 令和11年10月以降に登録する場合……経過措置の期間が終了するため、この時期以降にインボイス登録する免税事業者は、原則どおり選択届出書の提出が必要になります

4. 選択届出書を出していると「戻り方」も変わる

VOL.47で解説したとおり、登録申請書のみで課税事業者になった場合は、「登録の取消しを求める旨の届出書」1枚で免税事業者に戻れます。しかし、選択届出書もあわせて提出していた場合は、取消届出書に加えて「消費税課税事業者選択不適用届出書」も提出しないと、消費税の申告義務そのものは残り続けます。加えて、選択届出書には「課税事業者となった日から2年間は原則やめられない」という制約もあるため、免税事業者に戻れるタイミングにも影響します。

5. 実務のポイント

「インボイスに登録するなら選択届出書も出しておいた方が安心」という考え方は、令和11年9月末までの経過措置の期間中はむしろ逆効果になることがあります。自分がどちらの手続きだけで済むのか、還付など特別な目的がない限りは、登録申請書1枚で足りるケースがほとんどだと知っておくだけでも、無駄な手続きや思わぬ2割特例の適用漏れを防げます。

ご自身のケースでどちらの手続きが必要か、あるいは既に両方提出してしまっている場合の対応について、迷う点があればお気軽にご相談ください。

このコラムは、法人税・消費税・所得税・事業承継・相続税・人事労務まで、中小企業と個人事業主の皆さまが実務で直面しやすいテーマを全50回にわたって取り上げてまいりました。今後も税制改正の動向にあわせて随時更新してまいりますので、引き続きご活用いただければ幸いです。

※本記事は公開時点の法令等に基づいて作成しています。個別の適用可否については必ずご確認ください。

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