西原公認会計士・税理士事務所

税務コラム VOL.62 / 所得税・給与所得

「サラリーマンには経費がない」は誤解です ― 給与所得者の特定支出控除、知られざる還付制度

  • 給与所得者が業務のために自己負担した支出(特定支出)の合計額が給与所得控除額の2分の1を超えると、超えた部分を所得から控除できる
  • 対象は通勤費・転居費・研修費・資格取得費・単身赴任者の帰宅旅費・勤務必要経費(図書費・衣服費・交際費等)など
  • 適用には勤務先または国家資格キャリアコンサルタントの証明と、確定申告が必要(年末調整では完結しない)
  • 実際に適用を受けている人は全給与所得者の1%未満と、あまり知られていない制度

1. 「給与所得控除」を超える経費を認める制度

個人事業主は実際の経費を差し引いて所得を計算できますが、給与所得者は実際の支出額にかかわらず、収入に応じた給与所得控除(概算の必要経費)が一律に適用されます。しかし、業務のために自己負担した支出が多い場合、この概算控除だけでは実態に見合わないことがあります。そこで、業務に直接必要な特定の支出(特定支出)の合計が給与所得控除額の2分の1を超える場合、その超えた部分を追加で控除できる制度が「特定支出控除」です。

2. 特定支出の範囲

  • 通勤費……通常必要な通勤のための支出
  • 職務上の旅費……勤務地を離れて職務を行うための旅費(令和2年分から対象)
  • 転居費……転任に伴う転居のための支出
  • 研修費……職務に直接必要な技術・知識を習得するための研修費用
  • 資格取得費……弁護士・公認会計士・税理士などの資格取得のための支出(平成26年分から対象拡大)
  • 単身赴任者の帰宅旅費……単身赴任先から自宅へ帰るための支出
  • 勤務必要経費……図書費・衣服費・交際費等(合計65万円が上限)

3. 控除額の計算方法

まず自分の給与所得控除額を確認し、その2分の1を基準額とします。特定支出の合計額がこの基準額を超えた場合、超えた部分だけが控除できます。

計算例:年収500万円(給与所得控除144万円)、特定支出が年間80万円だった場合
基準額:144万円×1/2=72万円
特定支出控除額:80万円-72万円=8万円
この8万円が、通常の給与所得控除に加えて所得から差し引かれます。

給与所得控除額の2分の1という基準は、年収500万円クラスの人で年間72万円程度になるため、特定支出だけでこの水準を超える人は多くありません。実際に制度を利用しているのは全給与所得者のごく一部にとどまるとされています。

4. 適用を受けるための手続き

この控除は年末調整では完結せず、確定申告が必要です。申告時には次の書類が必要になります。

  • 「給与所得者の特定支出に関する明細書」
  • 給与の支払者(勤務先)の証明書、または研修費・資格取得費については国家資格キャリアコンサルタントの証明書(令和5年度改正で追加された選択肢)
  • 領収書等、支出の事実と金額を証する書類

実務メモ:勤務先から補てん(費用負担)を受けている部分で、かつその補てん分に所得税が課税されていない場合は、特定支出には含められません。会社の福利厚生や研修制度で費用が補助されている支出は、二重に控除を受けられないよう注意が必要です。

5. こんな方は該当する可能性があります

単身赴任で頻繁に帰省している方、業務に必要な資格取得のために自費で予備校や通信講座に通っている方、営業職で得意先への交際費を会社から十分に補助されず自己負担している方などは、年間の支出額を一度集計してみる価値があります。特に単身赴任の帰宅旅費資格取得費は、まとまった金額になりやすい項目です。

6. 実務のポイント

給与所得控除の2分の1という基準は決して低くないため、通常のビジネスパーソンが単独で超えるのは容易ではありません。ただし、単身赴任・大きな資格取得費・頻繁な出張などが重なる年は、集計してみると基準を超えることがあります。

ご自身が特定支出控除の対象になりそうか、年間の支出を確認したい場合は、お気軽にご相談ください。

※本記事は公開時点の法令等に基づいて作成しています。個別の適用可否については必ずご確認ください。

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