1. 退職金の税金が優遇されている理由
退職金は長年の勤労に対する対価としての性格が強く、老後の生活を支える重要な原資でもあるため、税制上手厚く優遇されています。受け取った金額全体に課税されるのではなく、①退職所得控除を差し引き、②残りをさらに2分の1にしてから課税し、③他の所得と合算せず分離課税で計算する、という3段階の優遇が組み込まれています。
2. 退職所得控除額の計算
勤続年数 | 退職所得控除額 |
|---|---|
20年以下 | 40万円×勤続年数(80万円に満たない場合は80万円) |
20年超 | 800万円+70万円×(勤続年数-20年) |
計算例:勤続30年、退職金2,000万円の場合
退職所得控除額:800万円+70万円×(30年-20年)=1,500万円
課税対象額:(2,000万円-1,500万円)×1/2=250万円
2,000万円受け取っても、課税対象はわずか250万円です。勤続年数(勤務期間)は1年未満の端数を切り上げます(10年2か月なら11年)。
3. 令和8年(2026年)改正 ― 「5年ルール」が「10年ルール」に
iDeCoや企業型DC(確定拠出年金)の一時金も、会社の退職金と同じ「退職所得」として扱われます。ただし、両方を一時金で受け取る場合、加入期間・勤続期間が重複している部分については控除の重複適用が調整されます。この調整の基準となる期間が、令和8年1月1日以後に支払われる退職手当等から「5年」→「10年」に延長されました。
- iDeCo等を先に受け取り、後から会社の退職金を受け取る場合(10年ルール)……退職金を受け取る前年以前9年以内にiDeCo等を受け取っていると、重複期間分の控除が減額される(改正前は「4年以内」)
- 会社の退職金を先に受け取り、後からiDeCo等を受け取る場合(19年ルール)……こちらは従来どおり19年で変更なし
実務メモ:「iDeCoを60歳で受け取り、5年後の65歳で退職金を受け取れば、両方とも満額の控除が使える」という従来の定石は、令和8年以降は通用しなくなりました。同じプランで受け取ると、退職金側の控除額が重複期間分だけ減額され、増税になります。受け取る順番と間隔によって影響が大きく異なるため、「10年ルール」と「19年ルール」のどちらが自分に当てはまるかをまず確認する必要があります。
4. iDeCoを「年金形式」で受け取るという選択肢
これらの調整ルールを回避する方法として、iDeCoを一時金ではなく年金形式(分割)で受け取る選択肢があります。年金形式にすると所得区分が「退職所得」ではなく「雑所得(公的年金等)」になり、会社の退職金とは合算されず、控除の重複調整の対象外になります。ただし、公的年金等控除には別の枠があり、老齢基礎年金・厚生年金など他の年金収入と合算して計算されるため、必ずしも非課税になるとは限りません。一時金・年金・併用のどれが有利かは、受給時期の他の収入状況によって変わります。
5. 手続き ― 「退職所得の受給に関する申告書」の提出
退職金を受け取る際、勤務先に「退職所得の受給に関する申告書」を提出すれば、退職所得控除を反映した正しい税額が源泉徴収され、原則として確定申告は不要です。この申告書を提出しないと、退職金の20.42%が一律で源泉徴収されてしまい、後日確定申告で還付を受ける必要が生じます。また、令和8年1月以後に支払う退職手当等からは、役員だけでなく全従業員について退職所得の源泉徴収票の税務署への提出が義務化され、税務署が個人の受給履歴を把握しやすくなります。「申告し忘れて控除を使い損ねる」というミスが減る一方、企業側の事務負担は増加します。
6. 実務のポイント
退職金とiDeCoの受け取り方は、一度決めると後から選び直すことが難しく、その後の手取り額に数十万円単位の差が生じることもあります。ご自身の勤続年数・iDeCoの加入期間・受け取りを予定している年齢を踏まえて、事前にシミュレーションしておくことを強くおすすめします。
退職金とiDeCoの受け取り順序や、有利な受け取り方についてご相談があれば、お気軽にお問い合わせください。