1. 3段階の控除額、差は「記帳方法」と「申告方法」
青色申告特別控除は、事業所得・不動産所得(事業的規模)・山林所得がある青色申告者が受けられる控除で、記帳・申告の方法によって65万円・55万円・10万円の3段階に分かれます。同じ「青色申告をしている」状態でも、記帳や申告のやり方次第で控除額に最大55万円もの差が生まれるため、要件を正しく理解しておく価値は大きいテーマです。
2. 55万円控除の要件 ―「複式簿記+期限内申告」
55万円の控除を受けるには、次の3つを満たす必要があります。
- 不動産所得または事業所得を生ずべき事業を営んでいること
- これらの所得にかかる取引を正規の簿記の原則(一般的には複式簿記)により記帳していること
- その記帳に基づいて作成した貸借対照表・損益計算書を確定申告書に添付し、法定申告期限(翌年3月15日)までに提出すること
3. 65万円控除の要件 ―「55万円の要件」+「デジタル化要件」
55万円の要件を満たしたうえで、さらに次のいずれかを満たすと、控除額が65万円に上がります。
- ① その年分の確定申告書・貸借対照表・損益計算書等を、確定申告期限までにe-Tax(電子申告)で提出すること
- ② その年分の仕訳帳・総勘定元帳について、電子帳簿保存法の「優良な電子帳簿」の要件を満たして電子データで保存し、確定申告期限までに一定の届出書を税務署に提出していること
実務メモ:実務上は①のe-Tax利用の方が圧倒的に簡単です。国税庁の確定申告書等作成コーナーや市販の会計ソフトからe-Taxで送信するだけで満たせます。一方②の優良な電子帳簿は、訂正・削除履歴の確保など電帳法上の細かい要件を満たすシステムの利用に加え、事前の届出書提出が必要で、ハードルがやや高めです。65万円控除を狙うなら、まずe-Taxの利用を検討するのが近道です。
なお、税務署の窓口に設置されたパソコンからe-Taxで送信する場合、青色申告決算書のデータを送信できないため65万円控除の対象になりません。自宅や事務所のパソコン・スマートフォンから送信する必要があります。
4. 10万円控除 ― 簡易な帳簿でもOK
複式簿記による記帳が難しい場合でも、現金出納帳・売掛帳・買掛帳・経費帳・固定資産台帳のような簡易な帳簿(単式簿記)をつけていれば、10万円の控除を受けられます。この場合、青色申告決算書は損益計算書のみで足り、貸借対照表の添付は不要です。ただし、現金主義による所得計算の特例(前々年の所得が300万円以下の場合に選択できる簡便な計算方法)を使っている場合は、55万円・65万円の控除は受けられず、10万円控除のみが対象になります。
5. 期限を1日過ぎただけで控除額が変わる
55万円・65万円の控除は、法定申告期限内の提出が絶対条件です。還付申告であっても、この期限内提出の要件は変わりません。期限を過ぎて提出すると、複式簿記で記帳していても65万円・55万円の控除は受けられず、控除額はゼロになってしまいます(10万円控除も同様に期限内申告が前提です)。確定申告の準備は、期限ギリギリではなく余裕をもって進めることが、控除額を守るうえで重要です。
6. 実務のポイント ― 令和9年分からの変更予定
令和7年度税制改正により、令和9年(2027年)分以後の所得税から、65万円控除の要件に「国税庁長官の定める基準に適合するシステムを使用した電子取引データの送受信・保存」という要件が追加される予定です。制度の詳細は今後の告示等で確定しますが、単にe-Taxで送信するだけでなく、電子取引データの保存方法についても一定の基準を満たすシステムの利用が求められる可能性があります。
現在65万円控除を受けている方は、令和9年分に向けて利用している会計ソフト・請求書システムが新基準に対応しているか、早めに確認しておくことをおすすめします。ご自身の記帳方法でどの控除額が適用されるか判断に迷う場合は、お気軽にご相談ください。