1. 「電子インボイス」と「PDF請求書」はまったく別物
請求書をメールでPDF送付することは、既に多くの会社で行われていますが、これは受け取った側が改めて内容を目視確認し、手入力(またはOCR)で会計システムに取り込む作業が必要という点で、紙の請求書と本質的には変わりません。これに対し「デジタルインボイス(電子インボイス)」は、売り手のシステムから買い手のシステムへ、人の手を介さず構造化されたデータとして直接連携される仕組みを指します。データとして届くため、受け取った側のシステムで自動的に仕訳を起こしたり、入金消込を自動化したりすることが可能になります。
2. 「Peppol」と「JP PINT」
この構造化データをやり取りするための国際規格が「Peppol(ペポル)」です。ヨーロッパの公共調達分野で使われ始め、現在は世界30か国以上で採用されている、文書仕様・ネットワーク・運用ルールの標準規格です。取引先ごとに個別のシステム連携(EDI)を組む必要がなく、相手のPeppol ID(識別番号)さえわかれば、異なるシステムを使っている企業同士でもやり取りができるという点が特徴です。
日本では、デジタル庁が2021年9月にPeppolの管理局(Japan Peppol Authority)となり、日本の商習慣・税制に合わせた標準仕様「JP PINT」を策定・公表しています。JP PINTに準拠した請求書フォーマット(Peppol BIS Standard Invoice JP PINT等)は、インボイス制度が求める適格請求書の記載要件を満たす形式として認められています。
3. 現時点では「義務」ではない
重要なのは、Peppol・JP PINTへの対応は現時点で法令上の義務ではないという点です。インボイス制度への対応(適格請求書発行事業者としての登録・要件を満たした請求書の発行)自体は、紙・PDF・デジタルインボイスのいずれの形式でも満たすことができます。デジタルインボイスは、あくまで請求業務全体を効率化するための選択肢の一つという位置づけです。
4. 大手企業から広がる「事実上の対応要請」
実務メモ:法令上の義務がない一方で、上場企業やグローバル企業を中心に、取引先に対してPeppol対応を推奨する動きが出始めています。業界団体(デジタルインボイス推進協議会:EIPA)が主導する取り組みの中には、大手企業が「Peppol非対応の取引先とは支払条件を見直す」といった方針を打ち出す例も見られます。中小企業の取引先であっても、今後、主要取引先からPeppol対応を求められる可能性を念頭に置いておく価値があります。
5. 導入のメリットと、現時点でのハードル
導入が進めば、次のようなメリットが期待されます。
- 受け取った請求書データの手入力・OCR作業が不要になる
- 発行側も、入金情報とひも付いたデータで消込作業を自動化できる
- 取引先ごとに異なるシステムを使っていても、Peppol IDさえわかればやり取りできる
一方で、法的な強制力がないことから、「まずはインボイス制度対応を優先し、Peppol対応は後回し」とする企業も多く、導入・運用コストに見合うリターンが不透明だと感じる慎重な見方も根強くあります。取引先の対応状況次第で効果が変わる、いわばネットワーク効果に依存する性質を持つ仕組みである点は理解しておく必要があります。
6. 実務のポイント
現時点で中小企業が急いでPeppol対応を進める必要性は高くありませんが、主要な会計ソフト・請求書発行システムの多くは既にJP PINTへの対応を進めています。今後システムを入れ替えるタイミングでは、対応状況を確認しておくとよいでしょう。
請求書業務のデジタル化や、取引先からPeppol対応を求められた際の対応についてご相談があれば、お気軽にお問い合わせください。