1. 「みなし配当」とは何か
株主が保有株式を第三者に売却すれば、通常は「売却価格-取得費=譲渡損益」という単純な計算になります。しかし、発行会社自身が株主から株式を買い取る(自己株式の取得)場合は扱いが異なります。会社が支払う対価のうち、株主が出資した「資本金等の額」に対応する部分を超える金額は、実質的に利益の分配(配当)とみなされるため、「みなし配当」と呼ばれます。事業承継の場面で、後継者以外の株主(親族株主や退任役員など)が保有する株式を会社自身が買い取るケースで、特に問題になりやすい論点です。
2. 計算の仕組み
みなし配当額 = 株主が受け取る対価 - 資本の払戻し相当額
(資本の払戻し相当額 = 資本金等の額 × 取得株式数 ÷ 発行済株式総数)
計算例:資本金等の額1,000万円、発行済株式総数100株の会社が、株主から10株を1株24万円(合計240万円)で買い取った場合、資本の払戻し相当額は1,000万円×10/100=100万円。差額の140万円がみなし配当として扱われます。
3. 個人株主にとって最大の落とし穴 ―「非上場株式は総合課税」
上場株式の配当であれば、申告分離課税(20.315%)を選択できます。しかし非上場株式のみなし配当は、原則として総合課税となり、他の所得(給与所得等)と合算して累進税率が適用されます。所得水準によっては、最大で約55%もの税率になり得ます。「株式譲渡なら20.315%で済むはず」と考えていると、想定外の高い税負担に直面することになります。
実務メモ:さらに深刻なのは、みなし配当と株式譲渡損失は損益通算できないという点です。ある株主が他の株主から高値(100万円)で買った株式を、発行会社に同じ100万円で売却した場合、みなし配当(例:99万円)が生じる一方、株式譲渡では取得費100万円を差し引いた譲渡損失(99万円)も生じます。理屈の上では損得なしのはずですが、税務上はみなし配当への課税だけが発生し、譲渡損失と相殺できません。利益が出ていないのに、まとまった税負担だけが生じるという理不尽な結果になり得るため、特に注意が必要です。
4. 会社側の義務 ― 源泉徴収と支払調書
みなし配当が生じる自己株式の取得を行った会社は、みなし配当部分について20.42%の源泉徴収を行い、買い取った日の属する月の翌月10日までに納付する義務があります。また、株主ごとに交付金額・みなし配当額・源泉徴収税額等を記載した「配当等とみなす金額に関する支払調書」を作成し、支払確定日から1か月以内に税務署へ提出する必要があります。会社側の事務対応を怠ると、後日追徴の対象になり得ます。
5. みなし配当が生じないケース
上場会社が市場で自己株式を購入する場合は、みなし配当課税の対象になりません(公開買付けによる取得は対象になります)。また、相続により取得した非上場株式を、相続税の申告期限の翌日から3年以内に発行会社へ譲渡した場合には、一定の要件のもとで、みなし配当ではなく通常の株式譲渡所得として扱う特例があります。事業承継やオーナーの相続に伴う自己株式の買い取りを検討している場合、この特例が使えるかどうかで税負担が大きく変わるため、必ず確認しておくべきポイントです。
6. 実務のポイント
自己株式の取得は、事業承継や株主構成の整理に有効な手段ですが、税務上のインパクトが非常に大きい取引です。特に、株主の出資額と株式の評価額(VOL.28参照)に大きな乖離がある場合や、相続直後の売却を検討している場合は、事前のシミュレーションが欠かせません。
自己株式の取得を検討されている場合は、みなし配当の発生有無や税負担について、実行前に必ずご相談ください。