1. なぜ保険金に法人税がかかるのか
火災や事故で工場の機械や社用車が滅失し、保険金を受け取った場合、その保険金は益金(収入)として法人税の課税対象になります。一方、滅失した資産の帳簿価額や滅失に伴う経費は損金として計上されるため、差引きで生じる保険差益(保険金等の額-滅失に伴う経費-滅失直前の帳簿価額)が実質的な課税対象となります。しかし、これにそのまま課税してしまうと、被災企業が事業再開に必要な設備を再取得する資金が目減りし、事業継続が困難になりかねません。そこで、一定の要件のもとで圧縮記帳による課税の繰延べが認められています(VOL.21で解説した国庫補助金の圧縮記帳と同じ仕組みです)。
2. 適用要件と計算の考え方
保険差益の圧縮記帳を適用するには、次の要件を満たす必要があります。
- 自己所有の固定資産の滅失・損壊により保険金等の支払を受けたこと(滅失等の日から3年以内に支払が確定したもの)
- その保険金等で、滅失資産と同一種類の代替資産を取得または改良したこと
- 確定した決算で圧縮記帳の経理(帳簿価額の損金経理、または積立金として積み立てる方法)をしていること
計算例:滅失資産の帳簿価額1,000万円、滅失に伴う経費50万円、保険金2,000万円、代替資産の取得価額3,000万円の場合。差引保険金(2,000万円-50万円)1,950万円は、代替資産の取得価額3,000万円をすべて充当したとみなせるため、保険差益950万円(1,950万円-1,000万円)の全額が圧縮限度額となります。この950万円を代替資産の取得価額から圧縮すれば、その期の課税所得への影響をなくせます。
3. 対象になる保険金・ならない保険金
対象になるのは、建物の火災保険金、機械の損害保険金、社用車の車両保険金など、固定資産の滅失・損壊を直接の原因として支払われる保険金・共済金・損害賠償金です。一方、次のような保険金は圧縮記帳の対象外です。①棚卸資産(商品・製品等)の滅失により受ける保険金、②営業休止期間の休業補償金、③他人から賃借している固定資産に係る保険金。特に休業補償金は、事業中断による逸失利益を補うものであり、固定資産そのものの損害を補填するものではないため対象から除かれます。なお、損害保険金は資産の譲渡等の対価ではないため、消費税は不課税で、圧縮記帳の計算に消費税を考慮する必要はありません。
4. 代替資産の取得が翌期以降になる場合 ―「特別勘定」の活用
保険金を受け取った事業年度中に代替資産を取得できないことも珍しくありません。この場合、翌期首から原則2年以内に取得する見込みであれば、圧縮限度額の範囲内の金額を「特別勘定」として繰り入れる方法により、保険金を受け取った期のうちに損金算入できます。その後、実際に代替資産を取得した際に、あらためて取得価額を圧縮記帳するとともに、特別勘定を取り崩して益金に算入する、という2段階の処理になります。逆に、保険金の確定前に自己資金で代替資産を先行取得していた場合でも、法人税法上、圧縮記帳の適用を受けられる仕組みが用意されています。
5. あくまで「課税の繰延べ」― 適用しない選択肢もある
圧縮記帳は税額そのものを減らす制度ではなく、VOL.21の国庫補助金の圧縮記帳と同様に将来の減価償却費を減らすことで課税を先送りする仕組みです。将来的に見れば負担する税額の総額は変わりません。また、圧縮記帳は法律上の義務ではないため、保険差益がわずかで税負担への影響が小さい場合や、被災直後で事務処理の余力がない場合は、あえて適用せず通常どおり課税を受け入れるという選択も可能です。適用する際は、確定申告書に「保険金等で取得した固定資産等の圧縮額等の損金算入に関する明細書」(別表13(2))を添付する必要があります。
6. 実務のポイント
被災時は保険会社への保険金請求手続きに追われがちですが、罹災証明書・工事見積書・被害写真などの書類は、圧縮記帳の適用可否を判断するうえでも重要な資料になります。保険金の入金前後で、代替資産の取得スケジュールとあわせて早めにご相談いただくと、適切な経理処理につなげやすくなります。
火災・事故等で固定資産に損害を受けられた場合は、圧縮記帳の適用可否について、お気軽にご相談ください。