1. なぜ「回収できなさそう」だけでは足りないのか
取引先が経営不振に陥り、売掛金や貸付金が回収できなくなる状況は、事業を続けていれば避けられません。しかし、税務上は「回収できなさそうだ」という主観的な判断だけでは、貸倒損失として損金算入できません。恣意的な利益調整を防ぐため、国税庁は法人税基本通達9-6-1〜9-6-3で、貸倒損失として認められる3つの客観的な類型を定めています。自社の状況がどの類型に該当するかを正確に見極めることが、この論点の出発点です。
2. ①法律上の貸倒れ ― 最も確実な処理
会社更生法・民事再生法の再生計画認可決定、特別清算に係る協定認可決定、債権者集会での協議決定など、法的な手続きにより金銭債権が切り捨てられた場合です。この類型は、切り捨てが決定した事業年度において、切り捨てられた部分の金額を損金算入します。
実務メモ:法律上の貸倒れは損金経理(会計上の費用計上)が要件になっていません。会計処理を忘れていても、法人税の申告書上で減算調整すれば損金算入でき、申告し忘れても後から更正の請求(VOL.60参照)で取り戻せる点で、3類型の中で最も安全な処理です。ただし、この損金算入ができるのは切り捨てが決定した事業年度のみで、翌期以降に繰り越すことはできません。時期を見誤らないよう注意してください。
3. ②事実上の貸倒れ ― 「全額」回収不能が明らかな場合
法的な手続きは経ていないものの、債務者の資産状況・支払能力等からみて、債権の全額が回収できないことが明らかになった場合です。取引先が事実上廃業した、行方不明になった、といったケースが該当し得ます。「一部でも回収できる見込みがあれば」この類型は使えません。全額回収不能が明らかになった事業年度に、必ず損金経理をする必要があります(法律上の貸倒れと異なり、後から申告書上の調整だけでは認められません)。また、担保物がある場合は、その担保物を処分した後でなければ損金経理できない点にも注意してください。
4. ③形式上の貸倒れ ― 売掛債権限定の簡便な処理
継続的な取引を行っていた債務者について、取引停止時・最後の弁済時などのうち最も遅い時から1年以上経過しても弁済がない場合、売掛債権の額から備忘価額(通常1円)を控除した残額を貸倒れとして損金経理できます。
実務メモ:この類型は売掛金・未収請負金などの「売掛債権」のみが対象で、貸付金には使えません。また「継続的な取引」が前提のため、単発の不動産売買などの売掛金は対象外です。事実上の貸倒れほど厳格な立証(全額回収不能の証明)は求められませんが、単に請求漏れで取引が途絶えていただけのケースは対象になりません。督促の記録は残しておく必要があります。
5. 3類型に該当しない間は「貸倒引当金」でつなぐ
取引先が民事再生を申し立てた段階など、まだどの類型にも明確に該当しない場合は、貸倒引当金(個別評価)で備えるのが基本です(VOL.17参照)。ただし、税務上の貸倒引当金の損金算入が認められるのは、資本金1億円以下の中小法人(大法人の100%子会社等を除く)や金融機関など、一定の法人に限られます。この対象要件に当てはまらない法人は、3類型のいずれかに該当するまでは損金算入自体ができないため、状況の推移を注視する必要があります。
6. 実務のポイント ― 証拠書類の整備が最重要
貸倒損失は税務調査で最も否認されやすい項目の一つです。債権の発生を示す契約書・請求書・売掛金台帳、回収不能の原因を示す破産手続の決定書・取引先の登記情報・現地調査の記録、回収努力を示す督促の記録など、類型ごとに必要な証拠書類を整理・保存しておくことが欠かせません。また、関連会社への債権を放棄する場合は、経済合理性がなければ寄附金認定(VOL.88の無利息貸付と同様の考え方)のリスクがあるため、特に慎重な検討が必要です。
取引先の債権回収が困難になっている場合や、貸倒損失の計上時期についてご不明な点があれば、決算を確定する前に、お気軽にご相談ください。