西原公認会計士・税理士事務所

税務コラム VOL.99 / 法人税・医療法人

「身内の会社だから」で価格は決められません ― 医療法人とMS法人の取引、税務上の中心論点は「価格の妥当性」

  • MS法人は、医療法人が担えない不動産賃貸・物品販売・事務受託等を行う、法律上は普通の株式会社・合同会社
  • 税務上の中心論点は「取引価格の妥当性」。相場より高い対価は寄附金・役員給与認定のリスクがある
  • 医療法人は保険診療(非課税売上)が中心のため、MS法人へ支払う対価にかかる消費税を控除しきれずコスト化しやすい
  • 医療法上も役員兼務の制限・非営利性(剰余金配当禁止)との関係で、行政上の留意点がある

1. MS法人とは ― 「特別な法人」ではない

MS法人(メディカルサービス法人)という特別な法人区分が法律に存在するわけではありません。実態は普通の株式会社・合同会社であり、「医療法人の周辺業務を担うことを目的に設立され、医療業界でそう呼ばれている」という共通認識にすぎません。医療法人は法律上「非営利性」が強く求められ、剰余金の配当が禁止されているほか、行える業務の範囲にも制限があります。そこで、不動産の所有・賃貸、医療機器のリース、医療事務の受託、物品販売など、医療法人では行いにくい周辺業務を、別法人であるMS法人に担わせる仕組みが広く使われています。

2. 期待される主なメリット

  • 所得分散……医療法人の利益をMS法人へ業務委託料・リース料として移転することで、法人ごとの実効税率の差を利用した税負担軽減が期待できる
  • 診療と経営の分離……医療業務は医療法人、経営・事務は MS法人と役割を分けることで、医療への専念と経営の機動性を両立できる
  • 資産・リスクの分散……建物や医療機器をMS法人名義にしておくことで、医療法人側の経営が悪化した場合でもMS法人側の財産を守りやすい

3. 税務上の中心論点 ―「取引対価は妥当か」

MS法人と医療法人は、資本関係・人的関係でつながった関連者間取引です。当事者同士が合意さえすれば対価はいくらにでも設定できてしまうため、税務調査では「第三者間の取引であれば成立したであろう価格(独立企業間価格)」という視点で妥当性が検証されます。

実務メモ:相場と比べて過大な対価は、差額部分が寄附金認定(法人税法37条)、役員給与認定、あるいは同族会社等の行為計算否認(医療法人は法人税法132条、個人開業医は所得税法157条)のリスクを高めます。妥当性を説明するには、①委託業務の範囲・内容・作業量が契約書や業務記録で裏付けられていること、②対価が外部委託や市場価格と比較して不自然でないこと、③賃料であれば近隣相場や契約条件に照らして妥当であること、を示せる資料をあらかじめ整備しておく必要があります。

4. 消費税は「思わぬコスト化」に注意

医療法人の主な収入である社会保険診療報酬は消費税の非課税取引です(VOL.85参照)。非課税売上の割合が高い事業者は、それに対応する課税仕入れの消費税を控除しきれない部分が生じます。MS法人から受ける業務委託・リース・物品販売は課税取引にあたるため、医療法人がMS法人へ支払う対価にかかる消費税の多くが、そのままコストとして残ってしまうことがあります。「所得を分散して節税」のつもりが、法人を分けたことで新たに生じる消費税負担が、期待した節税効果を打ち消してしまうこともあるため、消費税への影響を含めた試算が欠かせません。

5. 医療法上の留意点 ― 役員兼務の制限

税務上の論点とは別に、医療法上の留意点もあります。厚生労働省の通知(平成24年3月「医政総発0330号」)は、医療法人の開設者・管理者が、利害関係にある営利法人(MS法人を含む)の役員を原則として兼務できない旨を示しています。これは、医療法人の非営利性・剰余金配当禁止の原則を実質的に潜脱しないようにする趣旨です。院長・理事長がMS法人の代表を兼ねるのではなく、配偶者や親族を代表に据えるケースが多いのはこのためです。取引額が大きい場合は、医療法人側の理事会・社員総会等での承認手続きも確認しておく必要があります。

6. 実務のポイント

MS法人の活用は、節税・所得分散・経営効率化の観点から有効な手段になり得ますが、コスト面(法人維持費・消費税負担増)を含めた総合的な採算検証と、取引の妥当性を裏付ける証憑の整備が前提です。「節税だけ」を目的にすると、取引実態と価格の合理性が崩れ、税務上・医療法上のリスクが顕在化しやすくなります。

MS法人の設立や、既存のMS法人との取引条件の見直しについてご検討の場合は、価格の妥当性の検証も含めてお気軽にご相談ください。

※本記事は公開時点の法令等に基づいて作成しています。個別の適用可否については必ずご確認ください。

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