1. なぜ「振込手数料」がインボイス上の問題になるのか
請求金額から、買い手が振込手数料を差し引いて入金する商慣行は広く定着しています。しかし、この「差し引かれた振込手数料」は、税務上は実質的な値引き(売上げに係る対価の返還等)にあたります。インボイス制度では、値引き・返品を行った際、売り手に「返還インボイス(適格返還請求書)」の交付義務があるため、本来は数百円の振込手数料の差し引きが発生するたびに、返還インボイスを発行しなければならない計算になり、実務上大きな負担になることが問題視されていました。
2. 令和5年度改正 ― 「1万円未満」は交付義務免除
この事務負担を軽減するため、令和5年度税制改正により、売上げに係る対価の返還等(値引き・返品等)の税込金額が1万円未満である場合は、返還インボイスの交付義務そのものが免除されることになりました。振込手数料は通常数百円程度のため、ほとんどのケースでこの免除の対象になります。適用対象者や適用期間に制限はなく、法人・個人事業者を問わずすべての事業者が対象です(VOL.72の「少額特例」とは別の制度である点に注意してください)。
3. 振込手数料の会計処理 ― 2つのパターン
売り手負担の振込手数料は、会計処理の仕方によって、必要な書類の扱いが変わります。
- ①「売上値引き」として処理する場合……消費税法上も「対価の返還等」として扱う。1万円未満なので返還インボイスの交付は不要
- ②「支払手数料」として課税仕入れで処理する場合……値引きではなく別の課税仕入れとして扱うため、本来は取引銀行等からのインボイスの保存が必要。ただし振込手数料は通常1万円未満のため、少額特例(VOL.72参照)の対象となり、事実上インボイスの保存は不要
実務メモ:会計処理上は「支払手数料」の科目としつつ、消費税法上は「売上げに係る対価の返還等」として扱う、という折衷的な処理も認められています。この場合、通常の支払手数料と区別できるよう、専用の勘定科目コードや税区分を用意しておくことが推奨されています。いずれの処理を選ぶにせよ、帳簿上に対価の返還等に関する事項を明確に記載しておく必要がある点は共通です。
4. 「1商品ごと」ではなく「1回の取引」で判定
返還インボイスの交付免除も、少額特例と同様に「1回の取引の合計額」で1万円未満かどうかを判定します。たとえば商品1個あたりのリベートが1万円未満でも、まとめて請求された金額に対するリベートの合計が1万円を超えていれば、返還インボイスの交付が必要です。振込手数料以外にも、まとめ買いに対する少額な値引き・キャンペーンによる少額な割戻しなど、同様の考え方が適用されます。
5. 「3万円未満は帳簿のみ」の特例は廃止された
インボイス制度導入前は、税込3万円未満の課税仕入れは、請求書等の保存がなくても帳簿のみで仕入税額控除が認められるという特例がありました。この特例はインボイス制度の導入とともに廃止されています。振込手数料を「雑費」等として処理していた従来の運用をそのまま続けている会社は、この特例が既になくなっている前提で、少額特例(VOL.72参照)を活用しているのか、それとも見直しが漏れているだけなのかを、一度確認しておく必要があります。
6. 実務のポイント
振込手数料の処理方法(売上値引きか、支払手数料か)は、会計ソフトの初期設定やこれまでの慣習によって会社ごとにばらつきがあります。インボイス制度導入後のルールに沿って整理し直し、社内で処理方法を統一しておくと、経理担当者が変わっても迷わず対応できます。
振込手数料の会計処理や、返還インボイスの交付要否についてご不明な点があれば、お気軽にご相談ください。