1. 少額特例とは ― 小規模事業者の事務負担を軽くする措置
インボイス制度では、原則として仕入税額控除を受けるためにインボイス(適格請求書)の保存が必要です。しかし、日々の少額な経費(文房具・消耗品・交通費など)まで細かくインボイスの有無を確認するのは大きな事務負担になります。そこで、一定規模以下の事業者については、税込1万円未満の課税仕入れに限り、インボイスがなくても一定事項を記載した帳簿の保存だけで仕入税額控除ができる「少額特例」が設けられています。
2. 対象となる事業者
次のいずれかを満たす事業者(買い手側)が対象です。
- 基準期間(個人は前々年、法人は前々事業年度)における課税売上高が1億円以下
- 特定期間(個人は前年1〜6月、法人は前事業年度開始から6か月)における課税売上高が5,000万円以下
実務メモ:特定期間の判定では、給与支払額の合計額による代替判定はできません(消費税の納税義務判定における特定期間の考え方とは異なる点に注意)。また、基準期間の課税売上高が1億円を超えていても、特定期間の課税売上高が5,000万円以下であれば少額特例は適用できます。2つの基準はどちらか一方を満たせばよいため、両方を確認したうえで判定してください。
3. 「1万円未満」の判定単位 ― 商品ごとではなく取引ごと
少額特例の判定は、1回の取引の合計額(税込)で行います。1商品ごとの金額で判定するわけではありません。
具体例:5,000円の商品と7,000円の商品を同時に購入した場合、合計12,000円の1回の取引とみなされ、少額特例の対象外になります。一方、月額9,900円のサーバー利用料など、継続的な契約で毎月定額の支払いが発生する場合は、その月額料金が1回の取引として扱われ、1万円未満であれば対象になります。個人事業主への外注費のように、契約全体の金額が大きくても、稼働日数で按分した1日あたりの金額で判定することはできません。
4. 免税事業者からの仕入れでも「100%控除」
通常、免税事業者からの仕入れは仕入税額控除の対象外ですが、経過措置により令和8年9月30日までは80%、それ以降令和11年9月30日までは50%の控除が認められています(VOL.06参照)。しかし、少額特例の対象になる1万円未満の取引であれば、相手が免税事業者であっても経過措置を待たず100%の控除を受けられます。取引相手がインボイス発行事業者かどうかを確認する手間自体が不要になる点が、この特例の大きなメリットです。
5. 「売る側」の義務は変わらない点に注意
少額特例はあくまで買う側(仕入れをする側)がインボイスの保存を省略できる制度です。インボイス発行事業者としての交付義務そのものは免除されません。つまり、自社がインボイス発行事業者である場合、たとえ1万円未満の少額な取引でも、取引相手からインボイスの交付を求められれば発行する義務があります。「うちは少額特例の対象だから、インボイスを出さなくていい」という誤解は禁物です。
6. 実務のポイント
少額特例は令和11年9月30日までの時限措置で、その期限を過ぎると課税期間の途中であっても適用できなくなります。この特例に頼って経費精算の仕組みを組んでいる場合は、将来の制度終了を見据え、レシート・領収書の保存体制を段階的に整えておくことをおすすめします。
自社が少額特例の対象になるか、日々の経費精算にどう組み込むかについてご不明な点があれば、お気軽にご相談ください。