令和8年度税制改正法は、令和8年3月31日に成立・公布されました。今回の改正は、物価上昇への対応と、賃上げ・投資が牽引する「成長型経済」を目指す一年の改正といえる内容で、個人・法人双方に影響の大きい項目が数多く盛り込まれています。

改正は3つの分野で確認
個人向け控除・所得税の見直し
法人向け投資・賃上げ等の見直し
資産課税等税制と適用時期を確認

178万円は所得税の基準です。住民税・社会保険とは分け、各項目の適用時期も本文で確認してください。

1. 改正の全体テーマ

令和8年度税制改正大綱は、令和7年12月26日に閣議決定されました。柱は大きく2つで、①物価上昇への対応(基礎控除等の引き上げ、就業調整への配慮)と、②「強い経済」の実現に向けた対応(大胆な設備投資促進、賃上げ促進税制の見直し、研究開発税制の強化)です。あわせて、極めて高い水準の所得への負担適正化、自動車関係諸税の見直し、防衛力強化のための財源確保なども盛り込まれた、個人・法人双方に影響の大きい改正年になっています。

2. 個人の方向けの主な改正(既出テーマの振り返り)

給与所得控除の最低額
改正前65万円
令和8・9年分74万円
令和10年分以後原則69万円

令和8・9年分は74万円。令和10年分以後は原則69万円です。178万円は別の所得税基準です。

給与収入だけで一定の所得要件を満たす方について、所得税の課税最低限が178万円まで引き上げられますが、これは所得税に関する基準であり、住民税や社会保険の扶養基準が一律に178万円へ変更されるものではありません。

  • 配偶者控除・配偶者特別控除の水準見直し……上記の連動で、控除の年収基準が変動(「103万円の壁」はもう昔の話です ― 配偶者控除・配偶者特別控除、令和8年度改正後の壁の位置参照)
  • 住宅ローン控除の5年延長……令和12年12月31日入居分まで延長(住宅ローン控除、2030年まで延長 ― 子育て世帯・省エネ性能で控除額が変わる令和8年度改正参照)
  • 暗号資産の申告分離課税化(20%)……金商法改正法の施行日翌年1月1日以後の譲渡から適用予定(暗号資産、税率「最大55%」から「20%」へ ― ただし今すぐではありません。分離課税化の正確なスケジュール参照)
  • iDeCoの拠出限度額拡大・加入年齢70歳未満へ……令和8年12月施行、拠出反映は令和9年1月分から(iDeCoの掛金上限、最大2.7倍に ― 2026年12月施行、拠出限度額引き上げと加入年齢拡大参照)
  • 3. 見落とされがちな新規改正 ―「食事の非課税限度額」

    本シリーズでまだ取り上げていない改正の中で、実務への影響が大きいのが食事の非課税限度額の引き上げです。会社が従業員に食事を支給する場合、一定の要件(従業員が食事代の半額以上を負担すること等)のもとで、会社負担額のうち月額の非課税限度額までは給与課税されません。この限度額が、月額3,500円(税抜)から7,500円(税抜)へと大幅に引き上げられます。

    この引上げは、令和8年4月1日以後に支給する食事から適用されます。非課税とするためには、従業員が食事価額の半額以上を負担することなど、従来からの要件も引き続き満たす必要があります。

    食事補助の非課税限度額
    改正前・月額3,500円
    ↓
    改正後・月額7,500円

    いずれも税抜の月額です。令和8年4月1日以後の支給が対象で、従業員が食事価額の半額以上を負担するなどの要件も必要です。

    実務メモ:この非課税枠の範囲内であれば、給与として課税されることなく従業員に食事補助を提供でき、会社側も福利厚生費として損金算入できます。物価高が続く中、社員食堂・食事補助制度(チケットレストラン等)の導入・拡充を検討する企業にとって、追い風となる改正です。人材確保・福利厚生の強化を検討されている経営者の方は、この非課税枠の拡大を活用する価値があります。

    4. 法人向けの主な改正

    • 特定生産性向上設備等投資促進税制の創設……令和11年3月31日までに一定基準(投資計画額35億円以上、中小企業者等は5億円以上、年平均投資利益率15%以上等)を満たす設備を取得した場合、即時償却または税額控除(取得価額の7%、建物等は4%)を選択適用できる新税制
    設備投資の4つの確認点
    1. 1投資計画額
    2. 2投資利益率
    3. 3取得期限
    4. 4適用方法

    投資額・利益率などの具体的な基準と、即時償却または税額控除の選択は本文で確認してください。

  • 賃上げ促進税制の再編……大企業向け措置は令和8年3月末で廃止、中堅企業(従業員2,000人以下)向けは令和9年3月末で廃止予定、中小企業向け措置に特化する形に再編
  • 事業承継税制の計画提出期限延長……法人版は令和9年9月30日まで、個人版は令和10年9月30日まで(実施期限自体は延長なし、自社株の贈与税・相続税が「実質ゼロ」に ― 事業承継税制の特例措置、計画提出期限が延長されました参照)
  • 外形標準課税の見直し……減資対応・100%子法人等への対応(「資本金1億円に減資すれば安心」はもう古い ― 外形標準課税、令和6年度改正で「抜け道」がふさがれました参照)
  • 青色申告特別控除の要件見直し……令和9年分以後、一定の電子取引データの送受信・保存要件が65万円控除の要件に追加される方向(同じ複式簿記でも、控除額は10万円差 ― 青色申告特別控除、65万円・55万円・10万円の分かれ道参照)
  • 5. 資産課税・その他の見落としやすい改正

    付加税率は、内訳が変わる
    改正前復興特別所得税 2.1%
    改正後復興 1.1% + 防衛 1%

    令和9年1月からの内訳です。合計2.1%は改正前後で変わりません。

  • 自動車関係諸税の見直し……自動車税等の環境性能割の廃止、軽油引取税の当分の間税率の廃止など
  • 適用時期を分けて確認
    1. 令和8年食事補助の限度額・給与所得控除
    2. 令和9年防衛特別所得税の開始
    3. 令和10年以後給与所得控除の最低額を再確認

    ここでは主な項目だけを示しています。各制度の施行日と適用条件は本文で確認してください。

    6. 実務のポイント ― 100回にわたりお付き合いいただきありがとうございました

    令和8年度税制改正は、個人の手取り増加と企業の投資促進を両輪とする「成長型」の内容です。基礎控除の引き上げのような身近な改正から、設備投資促進税制のような経営判断に直結する改正まで幅が広く、経営者の方・個人の方それぞれが自分に関係する部分を正しく理解しておくことが重要です。

    本コラムは今回で第100回を迎えました。インボイス制度の基礎から始まり、法人税・所得税・相続税・消費税・社会保険まで幅広いテーマを取り上げてまいりましたが、税制は毎年のように改正が続きます。本記事は、令和8年3月31日に公布された改正法及び、その後に公表された国税庁資料に基づいて更新しています。改正項目ごとに施行日や適用時期が異なるため、実際の適用に当たっては最新の法令・通達等をご確認ください。当事務所では引き続き最新情報を追いながら、皆様の経営・生活に役立つ情報をお届けしてまいります。

    ご自身やご事業に関わる改正内容について、具体的な影響や対応についてご相談されたい場合は、お気軽にお問い合わせください。